食品メーカー経営 / カオミンケンさん – ベトナム就職者談

今回のベトナム就職者談では、ベトナム人でありながらも、生まれも育ちも日本のカオミンケンさんに話を伺いました。彼は、シンガポールでMBAを取得したのちに豆腐屋になることに!そんな奇想天外な人生を送るカオさんから、ベトナムで働くことことを決めた理由や現在ベトナムで働いていて感じていることをインタビューしました。

カオさん キャッチ

 自己紹介

–本日は取材をお願いします。まずは自己紹介をお願いします。

カオミンケンです。日本育ちのベトナム人で、早稲田大学を卒業後、大手メーカーの営業を勤めていました。そして、6カ月前にホーチミンへ来て、今はVi Nguyen(ヴィ・グエン)という、父親が9年前に立ち上げた会社を将来的に継ぐために働いています。知っている人もいるかと思いますが、ベトナムで納豆、豆腐や冷奴、しらたきなどを国内、一部は日本へ輸出しています。超おいしいです!現在は社長候補として何でもやりますが、特にマーケティング、営業、戦略立案などを主に担当しています。

 

–お父様はどうしてベトナムで豆腐屋を始めたんですか?

うちの会社は9年前に出来たスタートアップで、父親が早期退職して立ち上げた会社です。丁度ベトナム戦争時に東工大に留学して、電気機器メーカーで技術者として研究開発畑で働いていき、リニアモーターカーの研究などもしていました。全然食品関係無いですよね(笑)。なのに突然「俺は豆腐屋する!」と言い出して、急にベトナムで豆腐工場を作り始めたんです。何で豆腐を始めたか、当初は家族も誰一人として理解できませんでした(笑)。

専門がリニアモーターカーだったけど、父親も祖国ベトナムに貢献したいという気持ちはあったみたいです。でもリニアモーターカーは規模がデカくて、ベトナムで一人では出来ない。こじんまりと貢献出来る事を考えていた時に、丁度ベトナムのニュースが流れてきました。建設用の石灰で豆腐を固めていたことがその当時問題となっており、これはチャンスだと感じたそうです。日本式の安全・安心の美味しい豆腐を作ったら売れる!と。

そこで「試しに自家製豆腐を家で作ってみたら想像以上に美味しかった!」というのが、日本式の豆腐をベトナムで作ろうと考えたきっかけの様です。未経験からのスタートでしたが、日本製の機械を導入し、日本人から技術指導も受けました。そのおかげもあり、うちの豆腐や納豆、こんにゃく、しらたきは本当にうまいですよ!パッケージがローカル向けなので、日本人は手に取るのを敬遠しがちなデザインですが、味は完璧です。しかも安い。その証拠として、今はロッテマートやAEONなど、ベトナムのほとんどの大手量販店でうちの商品を取り扱ってもらっています。

リニアモーターカーも豆腐も、ものづくりという観点では同じです。よりよいものを作るためには仮説→検証を繰り返すことが重要で、それはどんなものを作るときでも一緒。リニアモーターカーの専門家である父が市場に受け入れられる美味しい豆腐を作れたのも、そういうところに理由があるのだと思います。

 

–ちなみに、カオさんは日本にいる時はどのような事をしていたのですか?

そうですね、新卒時代は大手電気機器メーカーで営業の仕事を3年間、その後、食品会社で3年間働きました。学生時代はカナダのトロントに1年間留学した経験があります。

 

 ベトナムで働くことを決めるまで

–そこからどうして父親のベトナムの会社で働こうと考えられたんですか?

そもそも私は日本生まれの日本育ちベトナム人です。日本の名前はないです。ずっと外国人として日本で生きてきました。一方、ベトナムに帰っても私は外国人扱いされます。なぜかというと、ベトナム語が出来ないからです。そのため日本でもベトナムでも外国人という、常にアウェイな環境で育ってきました。日本は他の人と違うことを嫌がる傾向があると思うけど、私はそのような異質な環境で育ってきました。それゆえに、人と違うことに対して何も拒否反応がない。出自から既に人と違うので、とにかく目立ちまくっていました。

 

–大学の時はどうでしたか?

大学でも人と違うことを頑張りました。例えば、大学ではベトナムでボランティアを行う団体を立ち上げました。今でも活動が継続されているのですが、その活動が評価されて、卒業式の時に学生代表として大学から表彰されました。「稲魂賞」というものです。それは人と違う事をやったからだと思っています。とにかく人と違う事をやって、結果も出してきました。

 

–順風満帆な人生の様に聞こえます。大学卒業後はどうでしたか?

でも、社会人になるとそうはいかない。わかるでしょ(笑)?あくまで一般論ですが、企業に入社して巨大組織のピラミッドの一番下に組み込まれると、今までのように自由にふるまえなくなります。組織の方針や上司の考えが自分のそれよりも優先されることが大半です。これは組織論としては至極当然です。

ですが、私はそのせいで社会人になってスランプに陥ってしまいました。人生で最大の自信喪失になり、その経験から、自分のことを言えない、表現できない環境は合わないと感じていました。学生時代を振り返って、自分を自由に表現できる環境こそが己の力を発揮するのに最も重要だと気がつきました。これは6年間働いてやっと悟ったことです。

「じゃあどうする?」と自分自身に問いかけた時、「起業するしかない」と答えが出ました。それこそ一番自由な生き方だと感じたのです。もちろんそんな簡単に出来る事ではないとは知っていながらです。父親が9年前に会社を興して、いい感じになっていたこともあり、タイミング良く「お前もやれ」と父親から言われました。6年間自由のない環境でくすぶるよりも、自由で自分自身を表現できるようにしたい。そのためには、まず父親の会社に身を置く事がいいんじゃないかなと思って、ベトナムに来る事にしました。

どういう学生でどのようなフィロソフィーがあって、どういう会社に入って、どのような挫折をしてというのが今までの人生のファーストステージです。自分の特色を活かすには、日本とベトナムの架け橋になる仕事がよいと思いました。ポジショニング的にも日本とベトナムの両方を知る人材は少ないはずです。ベトナムは今後需要が大きく伸びるマーケットで、そこで上手く自分を差別化できる場所だと思いました。自分が活躍する場所だと感じたのでベトナムに来ようと思いました。これは「何でベトナムなの?」という質問に対する答えです。

カオさん 表彰式

大学卒業式で学生代表として稲魂賞受賞のスピーチをするカオさん

–ちなみに豆腐屋になろうと思ったのはどうしてでしょうか?

お伝えしたように父親に誘われたことがきっかけですが、それ以前に私自身食べることが好きだからというのもあります。どの会社も詰まる所お客様を幸せにするために何かしら事業をしています。人を幸せにする方法はごまんとあって、その数だけ会社は存在していると考えています。私は「食」からの貢献、例えば「ご飯おいしいなあ!」って思うような幸せを提供したいと考えています。

その理由は、食事が美味しいというのは、色んな諸条件が揃って初めて生じる感情だからです。諸条件と言うのは、おいしい食材、腕の良いシェフ、健康、経済的余裕、精神面、 環境、一緒に食べる人との良好な関係などです。もしこれら一つでも大きく欠如すれば、美味しい食事はあり得ません。なので、食事を楽しめるって、実はものすごい次元の高い幸せなんです。お客さんがご飯を美味しいと思える環境を提供できる事は素晴らしいことですよね。そういう意味で食からのアプローチは非常にやりがいがあります。

 

 シンガポール国立大学でMBAを取得しようと思った理由

–豆腐屋をやろうと思ったあとに、どうしてMBAを取得しようと思ったんですか?

MBAに行った理由をお伝えします。と、その前にシンガポール国立大学のMBAを紹介させてください。同大学はシンガポールで最も歴史の古い大学で、昨年創立110周年を迎えました。シンガポールが昨年建国50周年を迎えたので、国が出来るよりもずっと昔からある大学です(笑)。大学ランキングだと、世界12位。MBAランキングだと、世界30位前後といったところです。

シンガポール国立大学の特色は東南アジアのビジネスに特化していることです。他国のMBAは、その国のビジネスを授業で取り扱うことが多いです。。例えば、アメリカだとシリコンバレーだったり、香港のMBAは中国ビジネスを中心に勉強することになります。私の場合は東南アジアで勝負したかったから丁度シンガポールが良かったんです。学生も同じような目的の人がたくさん集まってきます。

 

–入学はどのくらいのレベルなんですか?

合格率は5%。私の時は4,000人の応募の中から200人が合格しました。

豆腐屋を継ぐのに「何でMBAに行くのか?」と思われることでしょう。普通はMBAを取得した後に外資金融などにキャリアチェンジなどを考えます。でも自分は豆腐屋をやるので、そのようなキャリアチェンジは考えていない。それにもかかわらず、授業料等で1,000万円ほどMBAに投資しました。

いくつか理由がありますが、一つはキャリアのリスクヘッジの為に行きました。ずっと社会人でサラリーマンをやっていて、安定した人生を送っていたため、父親の会社を継ぐのはハイリスクハイリターンの決断でした。そのため、少しでもリスク耐性をつけておきたいと考えました。ハイリターンを得るためにはハイリスクをとるのが基本原則です。

ゆえにチャレンジングなリターンを求めるために、自分にリスク耐性がないといけないわけです。すこしでもリスクを抑えることで攻めの選択を出来る。MBAを取っておけば、もし事業が失敗したとしても、人生ジ・エンドにはならないだろう。だったらガンガン攻めていこうというマインドを持てると思いました。なぜそう思ったかというと、ハーバードのビジネススクールで教授が学生に伝えたある言葉がきっかけです。

最後の授業で、「ハーバードMBAの学生は世界で一番リスクを取れる人たちです。だから、世間体や安定を求めて職探しをしてはいけない。リスクを取って自分のやりたいことをやりなさい。それをできるのが貴方達の一番の特権です。」という話をしてたらしいのです。それを聞いて目から鱗でした。

あとは、自分が営業ばかりだったから、経営全般やアジアビジネスの勉強もしてみたかったんです。また、大きい会社だと会社の看板である程度信頼を作りやすい。でもスタートアップだとそうはいかない。取引先との信頼を獲得するためのシグナリング効果としても、MBAがあると便利ではないかと考えました。

カオさん AKB

AKB48のビジネスモデルについて、授業でプレゼンするカオさん。

 

 MBAを取るだけでは給料はあがらない

–実際MBA時代は大変ではなかったですか?

実際に行ってみて、普通に楽しかったですよ!すごく忙しくて、睡眠時間も短く、1日12時間勉強の日々が続きました。そして、MBAの価値は結構論争があります。結局のところその投資に見合うかどうかです。

結論、目的によると思います。純粋にキャリアチェンジやステップアップ、給与アップの為にMBAを取るのは割りに合わないかもしれません。なぜなら、MBA取ったら即仕事のパフォーマンスが急激に上がるか、というとそうでもありません。「能力=給与」という原理原則で考えると、MBAとったからといっても給与は急激に上がるわけじゃないですよね。そのため、金銭的な投資に対するリターンを取り戻すのには時間がかかるかもしれません。恐らく10年くらいかな?

 

–そんなにリターンを取り戻すのに時間かかるんですね!それでもMBAにどんなメリットがあるんですか?

金銭面以外の部分でいかに価値を見出せるかが大事です。それはなにかというと、自分の場合は、世界中から優秀な人たちが集まる場所で毎日のように議論し、沢山のプロジェクトを回していく。時には喧嘩しながら、チームに対して何か貢献をしなきゃと必死になる。そうして結果が出せた時は、大きな自信につながります。何と言ったって、議論から準備からすべて英語でやるので。

先ほど伝えたように、金銭が急激に上がるわけではないけど、得られる経験や自信などに非金銭的な価値を見出せるかが大事です。よく言われることだけど、人生を変えるためには自分を変えなければなりません。

カオさん MBA時代

カオさんのシンガポール在学時代。

 

–シンガポール国立大学でMBAをとって、人生が変わったと感じられていますか?

人脈が大きく広がるというのがひとつあります。サラリーマン時代は新しい出会いというのは限定的で、世界が狭かったと思います。一方MBAを取ってからは、世界が一気に広がったと思います。今までなら絶対会えないような人を沢山紹介して頂けるようになりました。自分の知らなかった世界の最前線で活躍している人たちと知り合い、友人として、またはビジネス相手として付き合えるというのはとても刺激的です。人生の質がガラッと変わった気がします。オススメです!

後は純粋に経営論を学ぶのも楽しいですよ。営業出身なので知らないことも沢山ありました。会社の意思決定をするにあたって、ミクロ経済で学んだ考え方が意外と役に立ったり、知的好奇心は大いに満たされます。教授のレベルも高く、その方々に直接レクチャーを受けられるのは楽しく、刺激的でした。

 

 ベトナムでの仕事内容は?

–現在は社長候補として、マーケティングを担当されているということですが、具体的にはどのようなことをされていらっしゃるのですか?

マーケテイングとは、豆腐やこんにゃくをどのようなターゲットに、どのような価格で、どのようにPRしていくかを考えていく事です。豆腐を例にしてみれば、ベトナム人をターゲットにして商品作りをしていて、彼らはどうやって豆腐を食べるのかを考えた時、基本的に豆腐を鍋にぶっこんで食べるんですよ。彼らの習慣に合わせた商品作りをして、例えば鍋の豆腐をどのように食べるのか、どのような味付けか、などを考慮に入れています。

また、ローカル層が購入しやすい値段設定にし、彼らが買い物をするローカル市場などにも販売をしています。AEONやロッテマートなどの主要スーパーでも販売されているので、ぜひ手にとってみてください。

私の担当しているマーケティング業務は、ターゲットを明確に定めて、そのターゲットに刺さるPR、価格、販売方法等の最適な組み合わせを考えて作戦を立てるわけです。実際それらと同時進行でオペレーションも営業もプロモーションも自分でやっています(主に日系企業担当)。ベトナム企業向けは父やベトナム人従業員が担当しています。

 

–ローカル層をターゲティングされていらっしゃるのですね!そこに何か狙いがあるのですか?

ベトナムローカル市場は、ベトナムにおける日系市場と比べて大きさが全然違いますからね。実は前も食品に関わった仕事をしていたのですが、日本の食品は現地日本人と富裕層をターゲットにしている傾向が強いです。その一方、ローカルのボリューム層を敢えて狙っている会社は少ない気がします。そのため、うちの会社はどちらかというとローカルメインで頑張っています。

 

–ちなみに、実際にMBAで学んだことは仕事で活用されていますか?

鋭い質問です。MBAで学ぶケーススタディーは、意思決定をするにあたっての最低限の情報が与えられているのが普通です。「自社の財務状況はこうで、競合はこうで、市場規模はこうこうです。以上から、どのようにして競合と戦いますか?」みたいな感じです。でも、新興国での実際のビジネスは、そもそもの前提となる情報がなかなか手に入らない。自社の財務諸表ですらあてにならない。情報が無さ過ぎます(笑)。

例えば、ベトナムの豆腐の競合シェアがそれぞれどれくらいで、各社売上がどのくらいなんて分からない。なんとなくスーパーで置かれている商品の量をみて、「うち今シェア2位くらいかな?」ってそんなレベルです。そういった意味では学んだ事とのギャップは多くて、手探りの中でやっています。一歩ずつ一歩ずつ、将来の目標に向けてこれから頑張って前進しようと思っています。

 

–今後ベトナムでどんなことにチャレンジしていきたいですか?

今までは技術力のみで会社はここまで成長してこられました。これからは更なる成長に向けて今まで足りなかった部分、例えば営業強化や会計・財務の部分もしっかりと見ていく必要があります。それは営業畑を歩み、MBAで経営を学んだ自分の役割だと感じています。そして従業員全員で力を合わせて、会社を次のステージに進めていきたいと考えています。

 

 キャリアに悩んでいる方へのメッセージ

–最後に、ベトナム就職/転職を検討されている方々にメッセージをお願いします。

この記事を読んでいる方で自身のキャリアについて悩んでいる人もいると思います。今の会社でくすぶっていてキャリアを変えたい、でもどんな仕事がいいか分からない、みたいな。

私の経験から一つお伝えすると、過去の自分を振り返ってみるのが大事です。「自分が一番輝いていたのはどんな時だったかな」「どんな時ワクワクしていたかな」というのを突き詰めてみるのが良いと思います。今の職場で全然評価されずに自信喪失している人も、そんなことはない。どんな人でも過去にキラキラ輝いた経験があるはずです。ワクワクしながら自分の力を発揮して、周囲に一目を置かれた経験があるはずです。そのときを思い出して、自分はなぜ輝けたのかを突き詰めて、それを次の仕事にしていければ良いキャリア人生を送れると思います。

私の場合も同じで、サラリーマン時代はくすぶることも多かったです。その時、自分が一番輝いていた学生時代のベトナムボランティア経験を思い出していました。その結果、会社を辞め、MBA留学を決意し、今ここにいます。今は毎日楽しく仕事をしています。

 

–すばらしいメッセージをありがとうございます!本日は長い間ありがとうございました!

 

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